今回は画像もなく、かなり長文ですがお許しください。
ここ最近、インドで妊婦生活を送ることに疲れを感じていた。「インドで出産なんてとても出来ない」とまで、早くもインド出産を放棄するような事まで思ってしまう重症度。 何も問題もなく心安らかにマタニティーライフを送られれば、一番良いのだけど、そう上手くもいっていないのが現状だ…
先月出血があった。1度でなく2度も出血があり、しかも2,3日続いた。不安でたまらず、担当医の携帯に電話した。すぐ救急にかかるよう指示を受け、かかりつけ病院の救急へ。 でも、私が心の頼りにしている肝心の担当医は現れず、結局、看護婦さんか医師かも分からない人が、担当医に携帯で連絡を取りながら、超音波検査の結果を伝えたり、血圧を測ったりしている。そして電話での担当医の指示を受けて対処する。 その結果「赤ちゃんは元気だけど、出血の原因が分からないから、悪化しないようにホルモン注射を打って、今日は入院するように」と言っていた。 正直、あっけに取られた。担当医師は現れず、内診で子宮口の様子も調べないで、看護婦さんのような人が、先生とやり取りしただけで出血の原因が分からないのは当然だろう、と。 それでホルモン注射なんて打たれて、治療するならとにかく、原因が分からないから入院なんて、子供も家で待っているのに、とんでもないと怒りさえ覚え全て拒否して帰ると主張した。 「私は自分の意思で注射を断り、入院の勧めも断り帰宅しました。責任は医師に問いません」と署名をさせられ帰宅し、自宅で安静にしていた。
そして1週間後、また出血した。担当医に電話した。また言われた「救急に行け」と…。前回も救急に行ったけど、先生には診てもらえず入院しろといわれただけだったので、どうせまた同じ事を繰り返すだけだ、と思い、もう誰を頼って良いのやら涙が出てきた。私はただただ、担当医の先生にきちんと診てもらって安心したいだけなのに、それさえも叶わないのか…(涙) そして他に頼る術もなく、救急へは行かず、ただ自宅で安静にして過ごした。
新年に入り、風邪を引いた。ひどい咳が続きお腹が張って痛い。担当医に電話した。「内科医に診て貰って薬を処方してもらいなさい」と言われた。「えっ、お腹も張るんですけど、先生が診てくれるんじゃないんですか?」「妊娠中だといえば、ちゃんと安全な薬を処方してくれるから大丈夫よ」と。 なんだか、悲しくなってきた。日本だと、とにかく妊婦はまず産婦人科医に診てもらうのが普通だ。出血してもお腹が張っても担当医は診てくれない。廻り回ってやっと見つけた担当医。先生にとっては何人もいる中の患者の1人に過ぎないけど、私にはたった1人の頼りの綱の担当医。こんなんじゃ、きっと出産の時も「救急に行け」で済ませられるんじゃないか…、と不安はドンドン大きくなり不信感も募っていく。 出生前検査だって何の説明もなしに、普通の血液検査と同じように受けさせられた。
インドの医療技術や設備に不安があるわけでは全くなく、システムの違いや、それが文化によるものなのか、それとも病院ごとに違うのか、それさえも理解できない。その「理解できない」という状況に耐えられなくなってきた。もう里帰り出産にしようか、と迷い始めている。
会社の通訳さんに話を聞いてもらった。「そういう不満や要望も含めて、全部話した方が良いですよ。一緒に行きましょう。」と言ってくださり、検診に付いて来てもらった。 「救急ですませるだけでなく、きちんと担当医である貴女に診てもらいたい」 「出産もこのままだと先生なしで済まされてしまうのではないか」 「出生前検査など、重要な検査はきちんと事前に説明して欲しいし、不要ならしないで欲しい」 など、今までの不満と要望を通訳さんに、洗いざらい話した。通訳さんは棘のないように上手に伝えてくれる。
先生は言った。 「病院は担当医だけで成り立っているわけではない。医師・看護婦・検査員・救急スタッフ、全員のチームワークだ。私が不在でも、きちんと連絡を密にとっており、薬の処方でも、きちんと私の許可を聞く電話がかかってくるのだ。ここの病院は全てがチームワークで動いている。私が診られなくても心配はない。」 「出産の時も必ず駆けつけるし、それまでも部下の医師や看護婦と連絡を取り合って対処するから、貴女はとにかくここに来るだけで、あとはスタッフに任せて大丈夫なんだ」 「インドの場合、女性の教育水準がまだ低いこともあり、説明しても理解できないことが多い。だから説明なしでこちらの方針で進めることが多い。だから、貴女にもどこまで何を説明すべきか分からなかった。」 「日本には日本のやり方があって、知識や教育があればあるほど、比較対象が多くなって、相違点に不安を感じるのも仕方ない。でも、ここのやり方に慣れてもらうしかない。大丈夫だから。問題や不安があった時、この病院にさえ来れば、私たちのチームワークで貴女と赤ちゃんを守るから。」
先生はきちんと話をしてくれた。私の不安や要望にも感情的にならず、怒る事もなく、最後まで聞き、きちんと回答してくれた。 そうなのだ、全ては「コミュニケーションの問題」だったのだ。「日本ならこうなのに、なんでインドはこうじゃないんだろう」「インドではこういう時、こういうのが普通なのだと思うしかない」 と不安や疑問を全て飲み込んでいた。それがどうしようもないストレスとして蓄積されていっていた。
あらためてコミュニケーションの大切さ、文化を理解する方法について気付いた。先ずは感情的にならず、思い込まずきちんと自分の考えを伝えることだ。そうすれば誤解だって解けるし、相手の言い分も理解できる。相手の文化を理解するには、先ずは自分の文化との相違点をはっきりさせることだ。そして初めてその背景にある事情を知る事も出来る。
そういう相互文化理解の根本的な事をみようとせず、考えることに疲れたからと、里帰り出産に即決しようとしていた。揺れはあるし、諸事情もあるけど、まだ決断は早い。インドで出来るだけの事をしてみよう、と考え直すことが出来た。
それにしてもやっぱり通訳って素晴らしい。言語の違う人間同士の会話だけでなく、意思疎通までスムーズにしてしまう仕事。信頼関係が壊れかけていたところを、きちんと修正することも出来る。忘れていた感覚が蘇った。 ハンガリーで通訳していた時、初対面の2人が私を介してそれぞれの言語で話をするうちに、涙を浮かべ最後には硬く抱擁する関係にまで発展する。その瞬間の鳥肌の立つような喜びを感じ、人を結びつけることの出来る言葉の力が神々しく思えた。 ぶつかる事を恐れていてはいけないんだ、違うもの同士だからこそ話さなければ、と改めて学んだ。これもインドの「悟り」かな(笑)
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